ハイデガーにおける「歴史性」の問題の再検討
廣田智子山口県立大学
ハイデガーは主著『存在と時間』(1927年)から一貫して、「自らに固有なもの」や「歴史性」を重視している。本発表では、1936年から38年の『哲学への寄与論稿』を対象として、ハイデガーの「存在の歴史」の構想における「別の原初への移行」について考察することで、ハイデガーにおける「歴史性」の問題を再検討する。
歴史的に規定された人間存在が共に生きるあり方をめぐっては、一般に、次の二つの立場が考えられる。一つは歴史性を重視する立場であり、もう一つは、それを超越しようとする立場である。前者は、所与の歴史的共同体の外部の声を排除して、自己を絶対化してしまう危険を有すると見られがちである。この問題を検討するために、発表では、まず、「別の原初への移行」の基本構造を確認し、次に、その背景にあるハイデガーの「存在の歴史」構想について考察する。これらの作業を通して、ハイデガー哲学における「歴史的なもの」の重視の積極的意義を明らかにすることを試みる。